☆「日高晤郎ショー 最後の日」濃密な会話
☆聞いてはいけない会話
STV第一スタジオ前の廊下に動きがあった。
起こりえる緊急事態に対処するためのメンバーの、静かすぎる集結。
廊下にお客さんが居なかったら、と考える。
もっと赤裸々に言葉が往還し、触れると指を切るほどに張り詰めたピアノ線のような視線が交差していたはず。
また、そこにこういう軽い違和感もあった。
廊下にお客さんが居るのに、そんな話を今ここで、、と。
(この時も廊下に多くのファンが居たが、おしゃべりとか放送に夢中で、緊迫の会話は聞こえていなかったはず。
私の位置から、私の意識から、そのギリギリの会話だけが収音マイクの様に私に届いていた。
まるで白昼夢のような、非日常的な時間と空間であった。)
かなりの近距離で、更に閉鎖空間である。
集結したメンバーの濃密な会話は続く。
調整室のスタッフとの会話や、モニターを見ながらの会話。
「あと、残り時間どれくらい?」
「いつでも、止められる?」
「食べてるの?今、食べたの?」
それ以上の会話は、当然あった。
しかし、これ以上を、私はこれからも絶対に他言しない。
確実に、日高晤郎ショーの終わりが近づいていた。
それをお客の私達に隠そうという余裕は、もうそこに無かった。
そう、それくらい事態は逼迫していたのだ。
☆日高晤郎ショー、命の瀬戸際
集結した顔ぶれに、一層確信は募る。
会社の上層部、マネージャー、交代要員と思われるアナウンサー、薬師、晤郎さんの養生食を作っていた調理人。
確実に、日高晤郎ショーの終わりが近づいている。
「ごめんなさい、晤郎さん。
ファンとして私は失格です。
でも、どう思われようと、この場面を誰かに伝えるのが私の役目かもしれません。
この場で、この背景を見聞きした人はほんのわずかだから。」
そう思いながらシャッターを切った。
晤郎さんの命の瀬戸際。
晤郎さんはその向こう、最後の4時台を、最後の力で仕上げようとしていた。