台詞~晤郎さん流「外郎売」
お正月でめでたいので、昨日お話ししました通り、晤郎さん外郎売台詞を記しておきます。
全文なので、淡々と記しますね。
そして、この全文は固定ページの「言葉博物館・外郎売研究室」の方にも記しておきます。
そしてそこに、分かったことを少しずつ遺しておきますね。
では、全文です。
☆日高晤郎さん流「外郎売」全文
拙者親方と申すは、お立会いの内に御存知のお方も御座いましょうが お江戸を立って二十里上方、 相州小田原一色町をお過ぎなされて、青物町を登りへお出でなさるれば、 欄干橋虎屋藤右衛門、只今は剃髪いたして圓齋と名乗りまする。 元朝より大晦日まで、御手に入れまするこの薬は 昔ちんの国の唐人「ういろう」という人、我が朝へ来たり。 帝へ参内の折からこの薬を深く籠め置き用ゆる時は一粒ずつ、冠の透間より取り出だす。 よってその名を帝より「透頂香」と給わる。 即ち文字には、「頂き・透く・香い」と書いて、とうちんこうと申す。 ただ今は此の薬殊の外世上に広まり方々に偽看板を出だし イヤ小田原の灰俵の桟俵の炭俵のと色々に申せども、 平仮名をもって「ういろう」と記せしは親方圓齋ばかり、若しや、お立会いの内に、 熱海か塔ノ澤へ湯治にお出でなさるか、または伊勢参宮の折からは、必ずお門違いなされまするな。 お上りならば右の方、お下りなれば左側、八方が八棟、表が三つ棟玉堂造り、 破風には菊に桐の薹の御紋を御赦免あって、系図正しき薬でござる。 あ、イヤ、最前より家名の自慢ばかり申しても、御存知ない方には正身の胡椒の丸呑・白川夜舟。 さらば、一粒食べかけてその気味合いをお目に懸けましょう。 まずこの薬、斯様に一粒舌の上へ載せまして、腹内へ納めますると、イヤどうも言えぬは、 胃心肺肝が健やかになって薫風咽喉より来たり、口中微涼を生ずるが如し、 魚鳥・木ノ子・麺類の喰い合わせ、その他万病即効あること神の如し。 さてこの薬、第一の奇妙には、舌の廻ることが銭独楽が跣足で逃げる。 ひょっと舌が廻り出すと矢も楯もたまらぬじゃ。 そりゃそりゃそらそりゃ廻って来たは、廻って来るは。 アハヤ咽喉、サタラナ舌にカ牙サ歯音、ハマの二つは唇の軽重、 開合爽やかに、あかさたな、はまやらわ、おこそとの、ほもよろを。 一つへぎへぎにへぎ干し端噛み盆豆盆米盆牛蒡、摘蓼摘豆摘山椒、書写山の社僧正。 こごめの生噛み、小米の生噛、こん小米のこなまがみ、繻子緋繻子繻子繻珍。 親も嘉兵衛子も嘉兵衛、親嘉兵衛子かへえ、子嘉兵衛親かへえ。 古栗の木のふる切り口、雨合羽か番合羽か、貴様の脚絆も皮脚絆、我らが脚絆も皮脚絆。 尻皮袴のしっぽころびを、三針張り長にちょと縫うて、ぬうてちょとぶんだせ、河原撫子野石竹。 野良如来野良如来、三野良如来に六野良如来。 一寸先のお小仏にお蹴躓きゃるな、細溝にドジョにょろり。 京の生鱈、奈良生真名鰹、ちょと四五貫目。 御茶立ちょ茶立ちょ、ちゃっと立ちょ茶立ちょ、青竹茶筅でお茶ちゃっと立ちゃ。 来るわ来るわ何が来る、高野の山のおこけら小僧、狸百匹箸百膳、天目百杯棒八百本。 武具馬具ぶぐばぐ三ぶぐばぐ、合わせて武具馬具六ぶぐばぐ。 菊栗きくくり三きくくり、合わせて菊栗六きくくり。 麦ごみむぎごみ三むぎごみ、合わせて麦ごみ六むぎごみ。 あの長押の長薙刀は誰が長薙刀ぞ。 向こうのごまがらは、荏の胡麻殻か真胡麻殻か、あれこそほんの真胡麻殻。 がらぴいがらぴい風車、おきゃがれこぼし、おきゃがれ小法師、ゆんべもこぼして又こぼした。 たあっぽぽ、たあっぽぽ、ちりからちりからつったっぽ、たっぽたっぽ一丁蛸、落ちたら煮て食を。 煮ても焼いても食われぬ物は、五徳、鉄きゅう、金熊どうじに、石熊、石持、虎熊、虎鱚。 中でも東寺の羅生門には茨木童子がうで栗五合掴んでおむしゃる、かの頼光の膝元去らず。 鮒金柑椎茸定めて後段な、そば切りそうめん、うどんか、愚鈍なこ新發知。 小棚の、小下の、小桶に、小味噌が、こ有るぞ、こ杓子、こ持って、こ掬って、こ寄越せ。 おっと合点だ、心得たんぼの川崎・神奈川・程ヶ谷・戸塚は走って行けば、灸摺りむく三里ばかりか、 藤沢・平塚・大磯がしや小磯の宿を、七つ起きして早天早々相州小田原透頂香。 隠れござらぬ、貴賤群衆の花のお江戸の花ういろう。 あれあの花を見て、お心をお和らぎやと言う産子這子に至るまで、 此のういろうの御評判、御存知ないとは申されまいまいつぶり。 角出せ棒出せぼうぼう眉に、臼杵擂鉢ばちばち桑原桑原桑原と、 羽目を外して今日御出での何れ茂様に、上げねばならぬ売らねばならぬと 息勢引っ張り東方世界の薬の元締め、薬師如来も照覧あれとホホ敬って、 ういろうはいらっしゃいませぬか。 |
享保三年正月 森田座にて 二代目団十郎 自作自演「外郎売」
その、日高晤郎さん版台詞