銘菓:正観寺 松風

熊本からお菓子が送られてきました。
有難く頂戴させていただいております。

今は何があるのかよく分かっておりませんが、昔、私が九州に住んでいた頃は、熊本のお菓子といえば、陣太鼓に、朝鮮飴。そしてこの松風と、まるで肥後の侍を想起させる銘菓が有名でした。

ザックリ言いますと、イメージですが、、、。
陣太鼓は円形の羊羹の中に求肥が入ってるお菓子。
朝鮮餅は、少々固めのわらび餅。
松風は小さな長方形の甘めの煎餅。
あくまでイメージです。

子供の頃の個人的な趣味で言えば、陣太鼓は手にベタベタと付くので苦手。
これは付属の楊枝を上手く使えなかったためですが。
陣太鼓
そして朝鮮餅は、ちまちまと食べずに一度でいいから丼一杯にして一気に食べるのが夢。
控えめな甘さがなんとも美味しい。
朝鮮飴

そして今回頂いたのが、松風。
子供心に、小さなお菓子をきちんと包んであるのが嬉しくて。
まるで宝物みたいなお菓子だなと思っていました。
正観寺 松風

陣太鼓も朝鮮餅も、そしてこの松風も。
古い時代から伝え続けられてきたお菓子なのだと知ったのは大人になってからです。
いずれも南北朝時代からの伝統的なお菓子だと知って驚きました。

特に大人になってから、松風はこの小ささと繊細さを味わうものだと気づき、一層見方が変わりました。
正観寺 丸宝 三代目店主の野口征治郎さんが持っているこの布状のものが松風。
これを柔らかなうちに折り重ねて小さな長方形に切るのでしょうね。
正観寺 松風
なんでも京都にも松風はあるそうですが、熊本の松風の特徴は、固くパリパリに仕上げられている事。
方や京都に伝わる松風は、蒸しパンのような感じに仕上げられているそうです。

正観寺 松風

さて、開いてみましょう。
この並んだ松風から一枚ずつ抜き出していただきます。
正観寺 松風
お茶にとても良く合います。
正観寺 松風
松風の表はこういう感じ。
正観寺 松風
それに対して裏側はこうなっています。
正観寺 松風


裏に装飾が無く、裏寂しいということから。
古典文芸では、寂しい海岸線に、松林に当たる風だけがヒューヒューと音を立てている情景、つまり「浦(うら)は寂しい松風の音」
銘菓松風も、この裏(浦)寂しいから来ている命名だそうです。

ちなみに。
松林に当たる風の音を、松籟(しょうらい)と言いますが、これはあの「松風の門」のラストを締めくくる景色です。
日高晤郎さんの世界を知って、思い入れ一層です。
また琴の音の比喩として使われるのも松籟。
松風の門 山本周五郎

こういう和歌もあります。
鎌倉時代の住吉物語の中の一節。
尋ぬべき 人もなぎさの 住の江に たれまつ風の 絶えず吹くらん
「たれまつ」と「まつ風」が掛詞です。

住之江の渚は現在の大阪の住之江区。
私が探す人もいない住之江で、絶えず鳴り続けている松籟のように、私は誰を待ち続けているのだろう。ただ琴を奏でながら。

高校時代に先生から教わって、なんてもの悲しい歌なのだろうと感じました。
そういう歌を思い返しながら、松風とお茶で向かえた朝です。
正観寺 松風

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