読書~いのちなりけり
☆葉室麟著 雨宮蔵人シリーズ
日高晤郎さんの御命日前日。
千の杜に向かったときに読み始めた葉室麟著「いのちなりけり」
これは、雨宮蔵人(あまみやくらんど)シリーズの第一作目の作品です。
雨宮蔵人シリーズは、全三作。
「いのちなりけり」が、2008年8月初版。
「花や散るらん」が、2009年11月初版。
そして最後の「影ぞ恋しき」が、2018年9月初版。
この三部作は、葉室麟の描く武士道・哲学・絆や愛情・文学観が最高の形で実を結んだ最高傑作だと私は捉えています。
一作目のあと、トントンと進んで1年3ヶ月で二作目が世に出ています。
そこから三作目が出るまでに、9年かかっています。
日高晤郎さんが旅立たれたのが2018年4月3日でしたから、「影ぞ恋しき」はお読みになっていないのではないかと思われがちです。
ところが「影ぞ恋しき」は、北海道新聞や東京新聞の朝刊に連載されていました。
その期間は、2016年6月23日~2017年7月31日。
日高晤郎さんがお元気だったころなので、もしかしたらお読みになっていた可能性はあります。
ただ、「本読み」としては、朝刊でチョコチョコ読むよりは、新刊でじっくり手に取って通して読みたいという気持ちが強いです。
なので、もしかするともしかして、既にお読みになっていた可能性も少しはあるのかなと言うのが、「影ぞ恋しき」。
このタイトルが、日高晤郎さんを思う時、私の胸に一層沁みます。
☆いのちなりけり
時代は江戸時代前期。
水戸光圀が、重臣の藤井紋太夫を刺殺するという歴史的に有名な事件から始まります。
その水戸光圀(徳川光圀)に仕える奥女中取締が、主人公の一人「咲弥(さくや)」。
その咲弥には、九州佐賀鍋島藩の支藩、小城藩からの入り婿が居る、「雨宮蔵人」それがその人。
前夫の面影を忘れられない咲弥が、蔵人と祝言を挙げたのは18年前。
咲弥20歳、蔵人26歳の時。
咲弥は、歌学二条流伝授で清楚な美しさを湛える才女。
夫を亡くして一年後に蔵人と再婚させられるが、初夜の寝所を共にする前、蔵人が書を読まぬ男と知り失望。
そのまま形ばかりの夫婦として2年ほど過ごした後に、藩の権力闘争のあおりを喰らい、咲弥は遠く離れた水戸家預かりとなった。
それから16年。
光圀は、咲弥の夫、蔵人を水戸に呼び寄せることを決めた。
この16年。
咲弥から初夜に問われた「蔵人様にとって、これこそご自身の心だと思われる和歌を教えていただきたいのです。」
この答えを探るため、私の心を表す和歌を探り続ける日々を過ごしていた。
そんな蔵人は、組み打ちの「角蔵流」使い手であり、剣術の「戸田流」の使い手でもあった。
さて、二人はなぜ16年も離れなければならなかったのか。
咲弥の想いと、蔵人の想い。
二人を取り巻く権力闘争。
もう名作です。
久し振りに読んだのですが、やはり涙が出ますね、名作です。
ここではあまり深く書きませんが、雨宮蔵人と言う人物そのものが、胸を打ちます。
何と真っすぐで、一途で、武骨ながら繊細で。
そういう人柄が、咲弥にも少しずつ伝わるんですね。
そして遠く引き裂かれた二人が、互いにそれぞれを深く信頼し合うようになる。
一切の手紙なども交わさずにです。
ここに描かれているのは、本来日本人が持っていた美徳や美学だともいえるのでしょう。
時代小説でありながら、これは葉室麟の哲学書なのだろうなと、読後の余韻に浸っております。
是非是非是非是非、この作品は、是非にとおススメです。