正月読書2023~ディーヴァー短編集 死亡告示
☆「フルスロットル」と「死亡告示」2
昨日、正月読書2023のフルスロットルを書きましたが、今日はその続き。
大体、年末年始に四冊読んでそれをまだ正月気分の残るうちに書けばいいものを、もう今、雪まつりですよ。
時間の流れは速いですね。
でも待てよ、一昨日が立春で旧正月では今日はまだ三箇日か、というわけで正月読書2023の最終本、死亡告示について。
こちらも収録作品は6編となっております。
☆死亡告示
まず初めの作品は「プロット」
「32冊ものベストセラー犯罪小説を執筆していた人気作家のプレスコットが、心臓発作でこの世を去った。享年68歳。」
そんな報道が世界中をかけまぐる中、読書好きでプレスコット作品のファンでもあったニューヨーク市警巡査部長のジミー・マロイは、その報道の裏に何か隠されている事実がまだあると不審に思う。
マロイが特に好きなのは犯罪小説であり、考え抜かれたプロット(筋書)とスピード感のある展開で1ページ目から楽しめたプレスコットの作品は大のお気に入りだったのだ。
報道記事に目を通す内、不審は独特の確信に変わりつつあった。何か引っかかる。
プレスコットの自宅を訪問した際の妻から感じた違和感。
10年前から共作者を勤めていたアーロン・ライリー氏の存在。
もしかすると、莫大な遺産を我がものとするため、妻とアーロン氏が企てた完璧なプロット(犯罪計画)があるのではないか。
マロイが捜査を進めるうちに、、、という作品。
こうくるか!と唸らされたプロット(筋書)でありました。
タイトルに脱帽。
次の作品は、「カウンセラー」
公認心理カウンセラーンのマーティン・コーベルは、自分の仕事に対しての責任感も強く、経験豊か。
理学修士であり、社会福祉修士の肩書を持ち、専門分野は怒りのコントロール(アンガーマネジメント)や、依存症。
ある日コーベルが、自分の職場近くのスターバックスで診療メモの記録をつけている最中、隣の席に座った女性の行動が目についた。
観察すればするほど、放置しておいては危険な兆候が明らか。
女性の職業は教師、彼女の手元の資料でそれは分かる。
あの眼つき、電話する声に含まれた怒り、書いている文字の切迫感。
コーベルが話しかけてみると、不快な感情を目に宿しながら答えてくれた。
職業は、中学校の教師だという。
子供、特に10歳から11歳頃までの子供は多感で、この女性のような教師から受けた悪影響は、一生引きずることになる。
放っておけない、とコーベルは独自のカウンセリング技術をもって、その女教師の内面に迫っていく。
とまぁこんな出だしなんですが、まさかの大どんでん返しがあるだなんて、誰も想像できないと思います。
ほんと、まさか。
ディーヴァーさん、こういう作品も書くのだとかなり驚かされました。
これまでディーヴァー作品に散々驚かされてきた私が、まんまとしてやられました。
「カウンセラー」私、かなり気に入ってます。
続いてこの作品、「兵器」
「恐るべき破壊力を持った新型兵器が、今度の土曜日に使用される。」この確実な情報が入ったのは月曜日。
使用されるまで、残り4日。
その兵器は、情報源の表現を借りれば、甚大な被害をもたらしかねないという。
その背景にある組織を探るための手掛かりは、大学教授兼ジャーナリストのアルジェリア人の男。
軍人であったのピーターソン退役大佐は、政府機関の男から受けたその情報を元に現地のエージェントに指示。
翌日火曜日。
アルジェリアの首都で現地エージェントがアルジェリア人の男を確保。
男の名前はジャック・ベナービ。
問題の新兵器を開発したというチュニジア人組織と接触していたベナービ。
水曜日。
ローマの違法極秘軍事施設「ブラックサイト」で、ベナービに対するピーターソンの尋問(拷問含む)が開始される。
ピーターソンは果たして、新型兵器使用を阻止できる情報を引き出せるのか。
緊迫の短編です。
四作目は、「和解」
ランサム・フェルズは、父親が嫌いだった、どうにも好きになれなかった。
本当はどういう人間だったのだろう?
正面切って語り合ったり、面と向かって縁を切る機会さえ失われていた。
10年前に父が急死したのだから。
ただ39歳になった今、父親に対する理解を少しだけ深められそうな雲行きになっている。
長い事避けてきた故郷へ、急な欠員ができてフェルズが向かうことになったのだ。
無口だった亡き父の面影が色濃く残る故郷へ。
私の感想。
いや!驚いた。
まんまと、してやられた!!
そして5作目が表題作、「死亡告示」
お馴染みのリンカーン・ライム作品です。
ライムが自宅で銃撃され死亡!
冒頭、緊急のメールが、過去にリンカーン・ライムの捜査に関わった警察関係者に送付されます。
メールの表題は、リンカーン・ライムのニュースリリースについて。
メールの末尾には、ライムの葬儀日時と会場記載。
このメールが長いのなんのって。
文庫本12ページ丸々使って書かれています。
それがまたただ長いだけじゃないところが、ディヴァーのディヴァーたる所以。
見事に、ライムを全く知らない新規読者にも、ここを読めばこれまでのライムの活躍が一発で分かるという内容。
しかも物語のj間を一切してないどころか、、、まぁこれ以上は言いますまい。
珠玉の、という表現が最適の短編です!
最後の作品はこれ、「永遠に」
つい直前まで幸せに暮らしていた老夫婦の自殺。
心中事件と処理されようとしていたが、タルボット・シムズ刑事(通称:タル)は疑念を抱いていた。
タルは経済犯罪捜査課・統計業務課に所属しており、言葉の定義や現場からの情報を重要視している。
関わった刑事や関係者から集まる記入済みの質問票から得られる情報は、今後に起こりえるだろう犯罪から、被害者を救えると信じて。
得られる統計情報とその整理からは、どうにも先に起こった老夫婦の件は自殺に至る要素を満たしていない、そんな疑念を抱くタル。
そこへ次の自殺案件の一報が飛び込んでくる。
同じく、幸せな暮らしをしている老夫婦の自殺。
損現場でタルが気付いたものは、最初の現場にもあった書籍「死出の旅」。
自殺の手引書。
数学の持つ論理的思考を駆使して、真相解明に進んでいく魅力的な刑事タルボット・シムズ。
短編というには少々多めの230ページの作品ですが、飽きさせない。
タルの魅力に魅入られて、一気に読める作品でした。
☆情報
ジェフリー・ディーヴァー作
死亡告示。
2022年5月10日初版発行
文藝春秋から出て、税込み1200円です。